五日目は土曜日だったので、ちょっと早く朝の用意をしてポートベローの骨董市に出かけることにした。バスで揺られること15分ほどで目的地に着く。ポートベローロードの両側に小さな店が立ち並んでいて色んなものが売っている。その店屋の一角には普通の民家もあるのが面白い。アクセサリー類、陶器、銀器、衣類などなど。日本の不二家のポコちゃんのかばんなんかもある。いかにも胡散臭そうなものから、素人目にも高そうなものまで色々だ。面白いところでは、様々な各年代のドアノブを扱っている店があったことだ。イギリスの家屋は古いものが多いので、ドアノブなんかも壊れると新しいものでは仕様が合わない時があるらしい。
こういう所で何か買うのは勇気がいるが、お遊びで何か買ってみたいのも事実だ。80ポンドできれいなヴィクトリア時代のものだというペンダントヘッドが売っていて、かなり気持ちが揺らいだのだが、お遊びにしてはちと高いかとあきらめた。やはりヴィクトリア時代のものだが、珠がいくつかなくなっているために10ポンドほどになった腕輪は買った。骨董品集めの趣味はないので、行ってきた記念としてはこのあたりが妥当なところだ。Yもトースト立てを買った。ちょっとゆがんで安定が悪い品物だったので、Yが日本語で「カタカタしてる」と店員に訴えると、英語にはそういう擬音語がないのにすぐにわかってくれた上、非常に面白がって大笑いとなった。言いえて妙だったのだろう。そしてこの陽気なおばさんは少しまけてくれた。
昼過ぎにここを後にして、その日の夕食になりそうなものを近くのスーパーで探す。そして私達にとっては最終日となったコンサートにいつもよりは早目にでかけた。と言うのは、日本にいる友人たちのお土産にグッズを購入したかったからだ。すでにかなりの人がグッズ売り場に詰め掛けてきていた。でも売り子の人が大変要領のいい人で、客の顔を覚えていてくれ、ちゃんと順番を守って処理してくれたので早くに買い物を終えることができた。
本日はどういう偶然か、Yと隣同士の席が取れていた。アリーナの後ろの方ではあったが、今回初めて友人とクリフを見ることができて嬉しかった。私たちの列はどういうわけか、後はほとんどが韓国の人で、イギリス人は5人ほど。私たち二人と韓国人の間に一人イギリス人がいたが、自国にいながら、まわりを東洋人に囲まれてクリフを見るのは、さぞ変な気持ちだったことだろう。
この日はシラ・ブラックがゲストで来ていて、二部の4曲目が終わったところで出てきた。シラが、ファンの気持ちを代弁するわ、と「I love you. I want you. I need you.」とクリフに言ったときには、まさにその通りと私も頷いたが、後はいただけなかった。彼女はベテランらしく舞台慣れしていて、観客との掛け合いも面白おかしく笑いを誘ってはいたが、どこかいやらしさを私は感じてしまった。クリフと’Imagine’をデュエットしたが、これもいやだった。シラの新しいアルバムに入っている曲らしいが、この歌は、私がクリフに歌って欲しくない曲の一つだったからだ。この歌の内容とクリフの思想とはずれていると思うからだ。もっともクリフはあまり歌詞を知らないらしく、コーラスをつけるくらいしかしていなかったが。
シラがかなり長い時間ステージ上にいたので、曲が何か端折られるかと不安だったが、クリフは全曲ちゃんとやってくれた。いつもは最後から3曲目が終わった所で、ファンが舞台に向けて突進するのだが、この日は一曲早く’What A Car’でファンが走り始めた。同じ列の韓国人もすべて走って行ったので、私達も今回初めて舞台に向かった。プレゼントを渡した時も、間近でクリフを見たわけだが、歌っているクリフを見るのはやっぱり良い。クリフは歌っているときが最高に美しいと私は思う。
目の前でクリフがお尻を振った。「キャーッ!!」という歓声が飛ぶ。「相手は60過ぎたオッサンだぞ」と突っ込みを入れたくなる。イギリス人はつくづくクリフのことが好きだなとちょっと呆れる。でもその60過ぎたオッサンを追いかけて日本くんだりから来ている私も同じ穴のムジナか?!いやイギリス人から見れば、もっとクレージーなファンなんだろう。ラストソングはいつもに増して美しく思えた。また来たいと心から思った。
お見送りも最後となった。私たちは出口から少し離れたT字路のところでいつも待っていたのだが、この日も15分くらいで出てきた。いつもはクリフの車は右折していくのだが、この日は左折して行った。ガードマンが右から来る車を止めて、クリフの車を優先させていた。交差点でクリフの車が止まればファンが押し寄せるからだろうが、大変なことだとつくづく思った。クリフはいつもの笑顔を残して去っていった。
舞台衣装は今日は一部はブラックジーンズだった。黒の上着からピンクに着替えた。二部は銀から衿も白という真っ白な上着に着替えた。彼はいつもジャケットの下にTシャツを着て、薄い上着を着ていた。Tシャツや薄い上着はだいたい黒か白だったが、この日の二部もTシャツは白だったが、薄い上着はゼブラ柄だった。
いよいよロンドン滞在最終日。最終日と言っても、飛行機の出発が13:30なのでロンドンにいるのは数時間しかない。朝早く目覚めて外を見ると雨が降っていた。昨日までずっと晴れで暖かだったのがうそのようだった。最後になったホテル自慢のイングリッシュブレックファーストを頂いた。焼きたてを提供してくれたクロワッサンは、この日もおいしかった。支払いを済ませ、10時過ぎにはホテルを出発した。空港に着いたのは11時ごろ。たっぷりと時間があるから空港内の免税店で少し買い物をしようと思ったのだが、これが大間違い。VATの申請の窓口が混んでいて一時間以上もかかってしまう。イギリスの窓口はどんなに混んでいても決まった人数の事務員しか出てこない。事務員増やせよ、ばか」と心の中で悪態を吐いてしまった。テロの関係でセキュリテイー検査にも時間がかかり、結局買い物の時間はほとんど取れなかった。急いで飛行機に乗り込んだのに出発は一時間遅れ。疲れきっていた私は離陸したのもほとんど気づかなかった。
あの素晴らしいクリフのステージを見るために、またロンドンに戻ってこようとYと約束して、私達のロンドンどたばた滞在は終わった。